KAWACHIAN Story 002 も一遍歌い(もいっぺんうたい)


 昭和37年から40年頃、このコカコーラの自動販売機が日本に本格的に普及しました。私の5才ごろからの風景です。
 この頃に、母親の働くプラスチックで食器などを作る大きな工場の文化祭の舞台のカラオケ大会で、私は、2000人ほどの工員の前で「ふるさと」を歌いました。幼稚園の頃です。
 舞台の袖では母親が優しく見守っており、私はバックの生演奏で「兎追いし・・」と歌い始めました。
 歌謡を歌うステージで、子供が童謡を歌う場違いさからか、酔っ払っていた一人の髪の長い工員が、客席の後ろの方から、「引っ込めー」と舞台に向かって叫びました。
 そこで、母親が舞台の袖から飛び出してきて、舞台の上からその工員に向かってマイクなしで、とても大きな声で「あんた、もう一遍言うてみー。ここあがってきいや」と叫びました。
 一瞬で客席は静まりかえり、演奏は止まり、その工員は申し訳なさそうに小さくなり、周りの工員からなだめられ、下を向いてうなだれていました。
 そして、母親は僕に向かって「政樹、も一遍歌い」と言い、伴奏者にお辞儀をして、又曲が始まり、僕は最後まで歌いきり、客席から大きな拍手が湧き上がりました。
 参加賞として、母親の工場で作っていた、水色と内側が白のプラスチックが二重になった保温マグカップをもらい、とても誇らしくて、うれしかった思い出が全ての始まりです。はっきりとして映画のような映像で細部まで覚えています。
 それから母親と私と妹の3人家族でいつも歌う歌が故郷でした。
 そして20年ほど前に新しい伴侶といる離婚した父親の家に遊び行った時、父親がハーモニカで吹いてくれた曲も「故郷」で、そして15年ほど前に父の葬式で流れた曲も「故郷」、なぜか、その曲を聴いた私は大号泣してしまいました。

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